薬物相互作用 (27―がん化学療法における制吐剤の 薬物 ..


女性は男性に比べ催吐リスクが高いことが知られている(→参照)。本邦の呼吸器領域と婦人科領域における制吐療法の第II相試験の報告では,同じカルボプラチンを用いても,アプレピタントを含む3剤制吐療法を用いた場合,全期間嘔吐完全制御割合は,呼吸器領域では8割程度であるのに対し,婦人科領域では6割程度であった。また,婦人科領域の悪性腫瘍でカルボプラチンを用いる際に,第1世代5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンのみを用いた群に比べ,これらにアプレピタントを加えた群では,「“食事や水分も摂れない強い悪心”がない」と「5日間嘔吐なし」の割合がそれぞれ有意に高かった。ただし,副次評価項目として制吐効果をみた研究であり,2,3 日目にはデキサメタゾンが用いられていないという制限がある。


開頭術施行患者において、アプレピタントとデキサメタゾンの併用投

悪心・嘔吐が起こるメカニズムを に示す。上部消化管に優位に存在するセロトニン3(5-HT3:5-hydroxytryptamine 3)受容体と第4 脳室最後野の化学受容体引金帯に存在するニューロキニン1(NK1:neurokinin 1)受容体が複合的に刺激され,最終的に延髄の嘔吐中枢が興奮し,遠心的な臓器反応が起こることで悪心・嘔吐が引き起こされると考えられている。化学受容体で作用する神経伝達物質としては,セロトニン,サブスタンスP,ドパミン,ヒスタミン,アセチルコリン-ムスカリンなどが知られており,これらの化学受容体と拮抗する薬剤が制吐薬として用いられている。

「悪心」は“嘔吐しそうな不快な感じ”と定義され,延髄の嘔吐中枢に向かう求心性迷走神経刺激により発現する。「嘔吐」は“胃内容の強制排出運動”と定義され,胃幽門部は閉ざされたうえで,下部食道括約筋の弛緩,横隔膜や腹筋の収縮により,胃内容が排出される。なお「空嘔吐」は“胃内容は排出されないが,強制的に排出しようとする運動”と定義される,。これら嘔吐中枢への入力刺激としては大脳皮質(頭蓋内圧亢進,腫瘍,血管病変,精神・感情など),化学受容体(代謝物,ホルモン,薬物,毒素など),前庭器(姿勢,回転運動,前庭病変など),末梢(咽頭-消化管・心臓・腹部臓器などの機械受容体,消化管などの化学受容体)がある。

[PDF] 2016年04月 『抗癌剤の催吐性リスク分類と制吐療法について』

アプレピタントとデキサメタゾンの併用もしくはアプレピタント単独投与の遅発性嘔吐に対する有用性もNCCN ガイドライン2017 や,レビューで示されている。個々の臨床試験では,中等度リスクに対するアプレピタントを含む3 剤の効果をみたランダム化比較試験がある。現在は高度リスクに分類されるAC 療法が約半数含まれている試験であるが,AC 療法以外の中等度リスクにおいても一次評価項目である「5 日間嘔吐なし」の割合が有意にアプレピタント群で高かった。ただし,これはサブグループ解析である点に注意が必要である。わが国でも,二重盲検ではないことに留意する必要があるが,オキサリプラチンベースの抗がん薬を用いる大腸がん症例において,5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンの併用療法にアプレピタント/ホスアプレピタントの上乗せ効果を,全期間および遅発期における嘔吐制御割合で証明した第III相ランダム化比較試験(SENRI 試験)の報告がある。さらに,AC 療法を除外した中等度リスク対して第1 世代5-HT3受容体拮抗薬(オンダンセトロン,1~3 日目),デキサメタゾン(1日目のみ)の2 剤併用群に対してホスアプレピタント併用の効果を見たランダム化比較試験がある。7 割以上の患者においてカルボプラチン,オキサリプラチンを含むレジメンが使用されていた。ここでは対照群のオンダンセトロン(1~3 日目),デキサメタゾン(1日目のみ)の2 剤併用群に比べて,主要評価項目である完全嘔吐制御割合が3剤併用群で有意に高かった(77.1% vs. 66.9%)。

また,悪心・嘔吐の発現時期や状態により,以下の定義があり,機序や背景を考慮した制吐療法が行われている。

また、オンダンセトロン、デキサメタゾンを併用投与した。 注8)オンダンセトロン ..

5-HT3受容体拮抗薬もしくはデキサメタゾンとの併用は,各単独療法と効果に差はなく,費用対効果において5-HT3受容体拮抗薬の有用性は疑わしいとされている(パロノセトロンはこの検討に含まれていない)。しかし,肝炎などでデキサメタゾンが使用できない場合は,5-HT3受容体拮抗薬を用いることもある。さらに遅発性嘔吐におけるパロノセトロン単独投与の有用性をdolasetron との比較で明らかにした第III相ランダム化比較試験の結果もあり,遅発性嘔吐に対するパロノセトロン単独使用は,現時点ではオプションの一つと考えられる(なお,ここでいう単独療法とは遅発性嘔吐に対するものであり,急性嘔吐に対する薬物療法に関しては を参照されたい)。5-HT3受容体拮抗薬と副腎皮質ステロイドは制吐効果,QOL 改善効果において同等であると報告した第III相ランダム化比較試験もある。MASCC/ESMO ガイドライン2016,ASCO ガイドライン2017 では,中等度リスク抗がん薬による遅発性嘔吐に対して,前述したパロノセトロンとデキサメタゾンの併用療法が推奨されている(参照)。

ランダム化比較試験は行われておらず,一般的には軽度リスク・最小度リスク抗がん薬に対して制吐薬は推奨されない(参照)。

5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンの2剤を併用する。 イホスファミド、メトトレキサートを投与する場合は、さらに

がん薬物療法によって発現する悪心・嘔吐は患者が苦痛とする代表的な副作用であり,制吐療法はがん薬物療法を完遂するうえで極めて重要な支持療法である。がん薬物療法によって生じる悪心・嘔吐を制吐療法により抑制することは,患者QOL を向上させ,治療を適切に維持し,最終的には全生存期間の延長が期待できる。しかし,制吐療法にはがん薬物療法を維持できる益の部分と同時に,有害事象,通院等の患者の生活上の負担,薬剤のコストといった望ましくない害の部分もあることは明らかであり,益の明らかでない制吐療法は行うべきでない。

近年,多受容体作用抗精神病薬(MARTA)であるオランザピンが,高度および中等度リスク抗がん薬による遅発期での悪心・嘔吐のコントロールに有用であるとの報告が多くなされている。わが国においても臨床試験結果が順次報告されており,欧米でのコンセンサスや,臨床的意義から2017 年6 月から標準的制吐療法に併用として使用できるようになった(→, 参照)。遅発性悪心・嘔吐の制御を行うための有効な薬剤としてわが国でのさらなる研究が期待される。


ノセトロンとデキサメタゾン併用下においてオランザピン 10mg はアプレピタントと同等

【参照】 2015ASCO 総会で報告された乳がんに対するアントラサイクリン系抗がん薬とシクロホスファミドを含むレジメンに対するデキサメタゾン/ホスアプレピタント併用下でのグラニセトロンとパロノセトロンの比較を行ったわが国の第III相ランダム化比較試験(WJOG6811B 試験)では,主要評価項目である遅発性悪心・嘔吐の完全制御割合において両群間に有意差は認められなかったが,二次評価項目ではパロノセトロン群が遅発期において有意に悪心を抑制した。

デキサメタゾンの全身クリアランスの変化:40mg 併用時24.7%低下,120mg

がん薬物療法により誘発される悪心・嘔吐の発現頻度は,使用する抗がん薬の催吐性によって規定される。本ガイドラインでは,海外の制吐療法ガイドラインと同様に,種々の臨床試験で示された催吐性を考慮し,制吐薬の予防的投与がない状態で抗がん薬投与後24時間以内に発現する嘔吐の割合に従って以下の4 つに定義した。

[PDF] アプレピタント併用におけるオキシコドン徐放 剤の薬物動態 ..

CHOP 療法も高度催吐性リスクに分類されている。しかし実臨床では制吐薬として2 剤併用が行われる傾向にある。これは高用量のプレドニゾロンを5 日間投与するため遅発性の悪心嘔吐が低いと考えられているためであり,実際に我が国で行われたCINV 観察研究では,79%で2 剤併用が行われていた。CHOP 療法に対するNK1 受容体拮抗薬の有効性については,1 コース目は2 剤併用を行い,2 コース目からNK1 受容体拮抗薬を上乗せする試験が報告されている。また第2 世代の5-HT3受容体拮抗薬の有効性について検討したいくつかの前向き試験が本邦より報告されている 。2 剤併用,3 剤併用のどちらが良いかについてのランダム化比較試験は,第II相試験での報告しかなく,今後の検討が必要である。

アプレピタント(イメンド®)は NK-1 受容体を選択的に競合拮抗する制吐剤で

催吐性は抗がん薬の種類,投与量,併用抗がん薬によって異なり,本ガイドラインでは に示すようなリスク分類を行っている。ほとんどの薬剤は単剤での分類となっているが,乳がん領域で多く使用されるアントラサイクリン系抗がん薬とシクロホスファミドはともに中等度催吐性リスク抗がん薬であるが,両者を併用する場合は高度催吐性リスクに分類している。また,多くのがん薬物療法では多剤併用療法が用いられており,使用薬剤の中で最も高い催吐性リスクの抗がん薬に合わせた制吐療法が推奨される。具体的には,原発臓器別の治療レジメン一覧(→ 参照)を参考としていただきたい。また,新規抗がん薬を検証する臨床試験においては,ガイドラインで推奨する制吐療法と異なる制吐療法が使用されることもあるが,その新規抗がん薬を投与する際には臨床試験で用いた制吐療法を行うことは許容される。

(CINV) 予防において、 NCCNが推奨するデキサメタゾン ..

またMASCC のガイドラインでは,①NK1 受容体拮抗薬を使用しない場合はステロイドを3日間,②NK1 受容体拮抗薬を使用する場合はステロイドを1 日間使用すると謳われているが,①Aapro らの論文では,NK1 受容体拮抗薬を使用しない場合でも,パロノセトロンを併用するという条件下でsteroid sparing が可能であると報告されており,②に関しては,2~3 日目のステロイドは2~3 日目のアプレピタントと同等であるという報告もあり,元となるエビデンスの背景や条件に注意が必要である。本邦におけるsteroid sparing に関する報告でも,パロノセトロン併用下の報告や,アプレピタントとパロノセトロンの2 剤併用下など条件が異なるため留意する必要がある。

中等度催吐性リスクのため、アプレピタント(イメンド・プロイメンド)の投与を行うか、Day2-3にデキサメタゾンの内服(8mg)を

がん薬物療法で使用する基本的な制吐薬には5-HT3 受容体拮抗薬,NK1 受容体拮抗薬,デキサメタゾン,オランザピンの4 剤があり,これらを催吐性リスクによって使い分ける。催吐性リスクに応じた適切な制吐療法を行っているか,制吐療法実施のための体制が整備されているかは,重要な施設評価のポイントとなり得るので,施設全体で取り組む必要がある。

高度(>90%)催吐性リスクの抗がん剤による治療を受ける人が嘔吐・吐き気を予防するために「アロキシ+デキサメタ.

アントラサイクリン+シクロホスファミド併用(AC)療法においてアプレピタントを使用しない臨床試験のエビデンスから,2 日目以降のデキサメタゾンの上乗せ効果は証明されていない。さらにステロイドの副作用を減ずる目的で,AC 療法に対する2~3 日目のステロイド使用を行わないsteroid sparing という投与法は,ステロイド通常使用に対する非劣性が海外の第III相ランダム化比較試験で示されている。本邦でも,アプレピタント(またはホスアプレピタント)を併用した第III相試験において,AC療法を含む高度リスク抗がん薬に対するsteroid sparing が可能であることが示された14)。ただし使用された5-HT3受容体拮抗薬はパロノセトロンのみであることに留意する必要はある。したがって,AC 療法においては,steroid sparing は選択肢の一つとなる(→ 参照)。

【薬剤師向け】「デキサメタゾン」とは?効果や副作用、薬価などを解説

第1 世代の各5-HT3受容体拮抗薬の制吐効果に差はないとされているが,わが国で行われた高度リスクの抗がん薬投与に対する,第2 世代の5-HT3受容体拮抗薬パロノセトロンとデキサメタゾンの併用群とグラニセトロンとデキサメタゾンの併用群の制吐効果を検討した第III相ランダム化比較試験において,パロノセトロンとデキサメタゾンの併用群が有意に遅発性嘔吐を抑制したことが示されている(参照)。また,高度リスクの抗がん薬投与に対するパロノセトロン,デキサメタゾン,アプレピタント併用群と,グラニセトロン,デキサメタゾン,アプレピタント併用群の制吐効果の比較を行った第III相ランダム化比較試験(TRIPLE 試験)が報告され,主要評価項目ではないがパロノセトロン群が遅発期において有意に悪心・嘔吐を抑制したことが示された

医療用医薬品 : イメンド (イメンドカプセル125mg 他)

また,制吐療法以外の支持療法や併存症に対する治療薬を併用している場合も多く,薬物相互作用によるそれぞれの薬効の変化も考慮した薬剤選択や用量調整が必要である。

イメンドが効いているのか、ゲップで少しウっときただけで吐き気と

また,MASCC/ESMO ガイドライン2016 では5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾン (12 mg に減量→ 参照)とアプレピタントによる3 剤併用療法も,高度リスクの抗がん薬による急性嘔吐と同様に遅発性嘔吐に対しても推奨されている。

イメンドを服用する際の注意点 | 小野薬品 がん情報 一般向け

経口抗がん薬による催吐性リスクについては に示す。経口抗がん薬は近年,数多く製造販売承認されており,悪心・嘔吐を含む有害事象の情報を集めたうえで適切な制吐療法を行う。